コラム 三寒四温

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レッドクロス

飛行機がガラス窓の桟をゆっくりとなぞるように走り抜けて行く。そしてかすかなジェット音を残して消えた。

カシャーン、シャー。カシャーン、シャー。

またあの女の子だ。病室のドアを隔てた廊下を、金属製の松葉杖を支えに一歩一歩ゆっくりと歩く。時計を見ると午前11時ちょうど。毎日決まった時間に私の病室の前を通り過ぎて行く。

見舞いに訪れた家内に車椅子を押してもらい、1階のタリーズへ。私はチャイティーのアイス、家内はタピオカ抹茶ティーで共にトールサイズ。店を出て、ふと病院の外観を眺める。群青色に染まった雲ひとつない、抜けるような空の下に大きなレッドクロスのマークが周囲のビル群の中で一際目立つように飾られている。血塗られた紅い十字架。改めて見るに厳かなシンボルだと思う。正面口の脇にはお花畑が続き、所々に平らな木製のベンチが置かれている。そこへ、松葉杖をついた少女が近づいて、腰掛ける姿が見えた。「オヤっ? ママ、あの娘だよ。ほら、“カシャーン・シャー、カシャーン・シャーの」。右脚を投げ出して左手を後ろのベンチにつく。右手にはタリーズのアイスコーヒーかな? いや違う。あのオレンジ色のストローはタピオカ抹茶ティーだ、ママと同じだよ。

抜けるような青空、雲ひとつない5月晴れのレッドクロスガーデン。彼女はじっと青空を見上げている。私はというと、ハワイから帰国して6日後の5月1日に入院、2日に再手術、そして今日は5月4日。明日は日本全国、こどもの日だ。頭上に広がる澄んだ青空を横切り飛び去っていくジャンボジェット。只今午後2時、この時間帯の出発ならヨーロッパかアメリカ東海岸方面かな? ハワイ便はチャーター便を除いて夜6時過ぎから10時までと決まっているから。そんな他愛もない事を考えている。

術後の経過は良好、エコノミー症候群を起こすかもしれないと両足に装着されていたマッサージ機、酸素吸入も点滴も外れた。残すは背中の手術痕から出てくる血を観察する「ドレイン」だけだ。多分、明日の朝にはそれも抜かれ、めでたく生身の身体に復活の予定だ!
 
10階の病室のドアの向こうには、超豪華な広尾ガーデンタワーズのマンション群がどっしりと構えている。それぞれの部屋には、それぞれの家族がそれぞれの生活を営んでいる。それが何かは知る由もない。壁一枚で隔てたそれぞれの日常生活がある。周りのビル群では屋上の赤色灯がテンポを合わせて点滅している。

静かな平和のとばりが今日もやってきた。明日からのリハビリをしっかり行い、予定通り2週間で退院できますように。全ての人々が健康でありますように。月明かりが差し込む病室から祈る。

カシャーン、シャー。カシャーン、シャー。いつも通り、あの娘が通る。自発的なリハビリ。早く良くなるといいね。今日もまた、穏やかな私の日常が始まっている。


弊社社長 菅田耕司のコラム


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