コラム 三寒四温

弊社の週刊紙「速報・製パン情報」から、好評の三寒四温をご紹介。
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引っ越し

自宅兼事務所移転の準備に追われる日々。

それにしても、不要な“もの”がこんなにもあろうとは! しばし愕然として頬杖と溜息をまとめてつき、所在なく庭の桜の老木をぼんやり見やれば、春を待ちかねる蕾がいくらかプックリと膨らみ色づき始めています。ガラス窓越しに太陽の光が差し込んできました。ベランダへ出て日差しを体いっぱいに浴びるのは気持ちの良いものです。

しかし、まだまだ寒い。部屋に戻れば点けっぱなしのTVが昼の天気予報を伝えています。街角から実況中継する女子アナが「現在の気温は摂氏5℃。このあと最高気温は7℃の見込みです」。こりゃ寒いわけです。ガスストーブの前に足を投げ出し、再びガラス越しの日光浴を楽しもうと窓際に横たわった途端、陽が陰ってしまいました。

天気予報を終えて平昌オリンピックの生中継が始まり、現地から状況を伝えるアナウンサーがメダルを獲った選手にインタビューしています。

「1つのメダルにはメダリストそれぞれの思いが詰まっています。ですから、重いのです」

本当だ、平昌のメダルはデカくて重そうだ! いや違うでしょう、そういう話ではありません。リビングを埋め尽くすデカくて重い荷物の山を見て現実に引き戻されます。休憩終わり!

事前に引越業者が送ってきた大小のダンボール20箱はすぐに満杯になってしまい、追加のお願いを電話連絡。見積もり額からの大幅加算が心配です。痛む腰と太腿を気遣いながら黙々とダンボール箱に詰め続け、考える事はただ一つ。

「この引っ越しを最後にしよう・・」

最後に残った大物はバーカウンターとワインセラー、リカー専用冷蔵庫の整理。カウンターの棚に常温で並べておいたビンテージのウイスキーや焼酎はプチプチで巻いて箱詰めするとして、はて困った事態が。ワインセラーと冷蔵庫にはコレクションのワインと大吟醸酒が詰まっています。「これは要冷蔵だから、明朝一番での箱詰めがベストだな」などと段取りを考えるも、可愛い我が子のように心配でなりません。こんな些細な事に悩む自分が情けない……。

7年間を過ごした下高井戸。最後の晩餐は、ご近所の友人たちが贔屓の日本料理店を貸し切りにして私たち夫婦をもてなしてくれました。ありがたい事です。おいしい料理と会話を楽しんだあと、なんと花束贈呈まで! 長いようで短い日々でしたが、感謝の一言です。

さあ、次は事務所への引っ越し分を終わらせなければ。どちらも新天地で心機一転、頑張ろうと誓うのでした。

まっ黒けーのけ

最近、どうも2つの事が
同時にできなくなった気がしてなりません。

料理が大好きな私はキッチンの4口あるガスコンロを使い、複数の鍋で同時に煮る・蒸す・炒めるを進め、さらにはコンロ下のオーブンで焼く作業もこなすほど、器用に同時調理してきました。しかし最近、おかしいんですね。

車でいざ出発、という時に家内が「ガスストーブは消した? あと、お湯を沸かしていたけど火は止めたの?」の一言。しかし、わずか数分前の行動が思い出そうと考え込むほど曖昧なものに……。という訳で家内が締めたばかりのシートベルトを外して車を降り、セコムを解除して2階のリビングとキッチンの火元を確認して戻ってきました。お手数掛けて申し訳ない気分。

「大丈夫だったわよ」。
ホッとしましたが、やや険しい雰囲気が車内を包みます。それはそれとして、「まだまだボケてないぞ!」と心の中で思うのです。

しかーし! ある日のこと……

煮物を火にかけたまま、1時間。

TVを観ていた私は、“急に”そう、急に思い出したのです。魚を煮続けていた鍋の事を! 慌ててキッチンに向かうと案の定、文化鍋からはもうもうと黒煙が。蓋を開ければ「まっ黒けーのけ」でございまして、魚はもはや原型を留めておらず、見事(無残)な“化石”になり果てていました。

最近ではこうした老人の単身家庭での事故による火災が多いと聞いていましたが、まさか自分が……。帰宅した家内に顛末を告げると、「まったくもー」と窘められ、さらに1週間後、またしても同じ失敗を繰り返してしまったのです。

この時以来、ガスコンロでの調理時には「絶対に目を離さない、離れない」という鉄則を固く取り決めたのですが……。

今日のランチは「バゲットサンドイッチ」。買い置きのバゲットにたっぷりと霧吹きで水を含ませて、200℃に温度設定したオーブンに入れました。

机に向かい書き物をする事1時間。ハッ! と気付いてキッチンへ急ぎ、オーブンを開ければ……アリャリャ、ナンテコッタ! バゲットが炭化しているではありませんか! 私は思わず大きめのパンナイフを手に、流しの中で炭と化したバゲットの表面を削り取るのですが、ナイフの勢いあまって流し台
の外まで炭化したバゲットの屑が飛び散り、掃除のおまけまでいただく羽目に。「あー、なんて日なんだ」。3分の2ほど削ったバゲットは中身が少しだけ原型を取り戻したので、恐るおそるかじってみると“焼き過ぎのラスク”と成り果てていました。

帰宅した家内は、掃除が行き届かなかった周辺や床に広がる惨状を見るや「またやっちゃったの?」と顔をしかめています。


ご同輩の皆様、
火の用心、さっしゃりませ!



アンビリバボー

 痛い。
 つらい。
 されど愚痴は言うまい。
 素振りも見せまい。

と、強がっても生身の体は正直です。ついつい、口に出してしまう。この意気地なしめ!

下手なのに、大好きだったゴルフ。「ゴルフができなくなったら、人生辞めるね」。なんて豪語するほど入れ込んでいたのに、クラブが握れない、振れない、コースを歩く事すらできないという三重苦に直面する事になるとは。それでも年に一度、程ヶ谷カントリークラブで開催していた弊社主催の「パン業界親善ゴルフコンペ」では50名近い業界人の参加者を迎えて先頭に立ち、はしゃぎ楽しんでいたのですが、3年前に中止して以来、再開は叶わずです。

4月の第三水曜日がお決まりの日程で、この時期は参加者の皆様へ開催通知を出していたなあ、今年の組み合わせはどうしよう、優勝賞品や各賞、そして参加者へのお土産は何にしようかな、なんて毎日考えるのが楽しみだったのに。昨年末に古希を迎え、近々いつか再開するぞと心に決めていたのに……。大事にしていたゴルフ道具一式は、最近始めたという甥っ子に全てプレゼントしてしまいました。これがなかなか、できなかったんです。心の中には幾許かの未練が残っていたのですが、いざ手放すとなぜか晴々とした気分でもあります。これで私のゴルフ人生は終わりました。淋しい。実に淋しい。

「頚椎損傷による手術は、首から下の全てが麻痺する可能性が20%あります」という医者の説明を受けても、手足の痺れが治ればという強い思いから首の骨を10センチ削るという大手術を決断しました。しかしその甲斐もなく3年経った現在では手足の指の痺れは手術前以上に悪化する始末。その1年後に偶然発見された胃癌では、術後10日間で退院のはずが、感染症および「産生胃癌」という10万件に1件あるかないかという症例に見舞われました。10日間のICUを経て2ヵ月以上の入院という情けなさ。術後、1年半におよぶATCという抗癌剤治療を3週間に1度、有明のがん研究所に通い続けました。昨年9月には脊椎狭窄症で3年間で4度目となる全身麻酔での手術も成功する事なく、医者から薦められた2度目の手術は拒否する事にしました。

しかし、体の不自由さに負けてばかりはいられません。手術後は100mも歩けなくなっていた私はルートブロックという痛み止めの注射を打ち、スポーツジムのウォーキングマシンに恐るおそる乗って、ゆっくりと歩いてみました。ルートブロックを打つ前にトライした際には1分と続きませんでしたが、今回は時速3マイルの速度で15分も歩く事ができました。

柔軟体操を軽めに仕上げてのジャグジーは至福のひととき。全身に叩きつけるバブルが幸福感を刺激してくれます。ゴルフは無理でも、体を動かせるエクササイズが日々の充実感を満たしてくれます。諦めずに一歩一歩、そして10年後の創業80周年を迎えられたら、天国の父も喜んでくれる事でしょう。「アンビリバボー!」ってね。


相対的判断

人の意識と味覚の進化は21世紀に入って以降
とてつもない早さで新たなレベルに突入しつつある

というのが私の推論です。いかに選択の幅が増えたか、という話でもあります。

例えば、私はA店がパンはおいしいと感じ、家内はB店のパンがおいしいといいます。これはふたりの味覚の違いをあらわす“相対的判断”ですね。どちらも正しい意見であり、これを広い視野でとらえると、嗜好の差は「万人に存在」すると理解できるのではないでしょうか。もちろん、常識の範囲内のレベルです。

人それぞれ、好き嫌いは千差万別です。人と人、そしてその友人と友人とでは好みが違うといった具合に、嗜好の違いは無限といえるでしょう。「一つから無数へ、無限の嗜好の違い」。その多様性が進化の証でもある、という訳です。

弊社の月刊紙「日本パン・菓子新聞」にて10年以上にわたり続く企画、世界各国の駐日大使夫人による「大使夫人のおもてなし」コーナーでは、それぞれのお国柄を反映した食卓における、主食と料理の数々が紹介されています。

例えばケニア共和国の「ウガリ」。これはトウモロコシを粉にして水で溶き適度な硬さに練りまとめて蒸して、その完成品を手でちぎりながら他のおかずと一緒に手にまとめて食べます。「手」で食べる文化は我が日本をはじめ世界各国に多数存在します。インドやサモア、パプアニューギニアなどなど。一度手でまとめた料理を口にすると、新たに食感も雰囲気も変わります。普段なら箸やフォークで食すであろう料理に直接触れることで生じる違和感、それこそが“新しいことにトライしている”というチャレンジ精神であり、最近私が好きな言葉“ウィアード”(変人であれ)の精神に通じるかのような高揚感を覚えるのはなぜでしょうか。人は人、自分は自分。そして、パン屋はパン屋なのです。

それぞれに特徴があり、長所もあれば短所もある。選り好みは無限大でしょう。ここで私は思うのであります。顔の見えない「顧客ファースト」や、膨大な情報量で押し寄せる海外トレンド等に拘泥することはありません。要は自分好みのパン屋さんへ好きなパンを買いに行けばいいことなんです。自身の価値観を信じた上での「相対的判断」があれば、いたずらに右往左往することもないでしょう。

ここで私は提案したい。今までの概念を捨て去り、自由な発想の元にパン屋は商品開発をするべきであるということ。もちろん商売として利益の確保も大切ですが。

「大使夫人のおもてなし」コーナーは、弊紙創刊70周年を経てますます大使夫人の友人の輪がひろがりつつあります。ここに沢山のヒントが隠れています。注視されることを希望します。


弊社社長 菅田耕司のコラム


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